パーマカルチャー

パーマカルチャー -持続可能性、システム思考、デザイン思考-

パーマカルチャーは、農法や、庭づくり、ランドスケープデザインの「手法」という形で見られがちですが、システム思考とデザイン思考を用いて、「持続可能な暮らしのシステムのデザインをする思想と手法」という定義で捉えることが、分かりやすいと思います。

つまり、良い社会、持続可能な自分たちの暮らしや文化を自分たちの手で作る責任があるのだと考えており、「手法」だけではなく、「思想」もあるということは、倫理感、進むべき方向性があります。それは3つの倫理、Earth care, People care, Fair shareです。

倫理は、目指すべき方向性は示すものの、何がFair Shareなのか、何がEarth Careなのか、おかれている状況や環境によって、動的に変わってくるものであり、個々人のおかれた環境に依存する側面もあります。しかし、有限である地球の資源や環境が失われてしまうことは、どんな場所や環境にあっても喫緊の共通の課題として捉えられるでしょう。まず、今の地球がおかれている大きな文脈を持続可能性から概観します。

持続可能性

 持続可能性の定義は、「将来世代のニーズを損なうことなく、現役世代のニーズをみたすこと」でありました。国際会議の中でも、私たちが地球から享受している豊かさや資源を将来世代が使えないのではないかという危機意識が、時代を経て話されるようになりました。特に地上の生命や海中の生命の暮らす環境が、人間活動によって悪化していること、人間の社会が富と資源の不平等を伴い発展していること、今でもケアを必要としている人たちがいること、この課題に対して、SDGsという目標も制定され、世に知られるようになりました。

 企業や行政が社会的なシステムの課題に取り組むことも必要ですが、もっと小さい単位でも、持続可能性を作り出すことが必要です。パーマカルチャーは、自分自身の手で、自分や地域のニーズを満たすシステムを作るデザインの手法であるので、小さな持続可能なシステムを作る手法として適しています。

システム思考

私たちは、問題が存在するとそのことにまず感覚的に反応し、自分の経験や行為から対処しようとします。また、大きすぎる問題に対しては、感情的に反応するだけかもしれません。それは、問題を感情的に処理すること、自分は何かをしたのだと安心することはできても、問題が沸き起こる構造それ自体にたどりつかないことが多くあります。なぜそれが起きているのか、そこにどんな構造や力学が潜んでいるかを深く考えるためには、一度立ち止まってそれを観察することが必要です。

感情や感覚ではなく、構造としてものを見る手法として、「システム思考」があります。システムは、「要素」と「相互のつながり」そして「機能/目的」から成り立っています。例えば生態系や社会には、それぞれの生き物や人が要素で、それは相互につながっていて。機能しています。システム思考は、「問題」がどのようなシステムの機能や構造から成り立っているのか、を見つけて改善するときに、もしくは、「目的」をもって要素を結び付けてデザインするとき、に使う思考法です。

社会や生態系は複雑で、わかりやすい一つの目的のために作られているものではありません。しかし、何か問題が起きたときに、どのような要素があり、どのようなつながりをしているのかという「視点」を持つことによって、感情や感覚的にものを見る自分の思考から一歩外に出ることができるのです。

パーマカルチャーでは、私たちの暮らしをシステムとして捉え、必要なエネルギーや暮らす、うえでのニーズや時間をインプットの要素として捉え、廃棄物や収穫などをアウトプットの要素と捉えます。そしてそれらをどのようにデザインするのか、私たちの暮らす社会や、基盤となっている自然環境などの大きなシステムの変化などにも対応することなど、システム思考の基本的な考え方を用いて暮らしのデザインをするというデザイン体系なのです。

デザイン思考

パーマカルチャーはデザインの考え方を構築する上で、システム思考の他に、日本の福岡正伸の「自然農法」の影響を強く受けました。福岡正伸は、農業において、要素を一つ一つ切り取って害虫の防除や施肥の管理をする「還元主義」的な科学的な知見の限界を指摘した人です。特に無の思想という「不可知論」の考え方をベースに手法を確立し、「自然と戦うのではなく、共に働くのだ」という彼の言葉にパーマカルチャーは強くインスパイアされました。

ビル・モリソンの言葉でproblem is solutionという禅問答のような問いがあります。それは「害虫がいるのが問題ではなく、害虫を食べるアヒルがいないのが問題なのだ」と人間の見方を変えようというデザインの態度が言い表されています。究極は、人間の都合の良いように自然を管理しえないという思想を内包しつつ、固定観念を外して深く観察し、自然と共にどう豊かに生きてゆくのかというデザインの原則を確立します。すべての場所や文脈に当てはまるかたい定義ではなく、パーマカルチャーのデザイン思考の目指すべき指針やものの見方を示した12個のデザインプリンシプルがつくられました。

パーマカルチャーは、デザインの思想と手法です。持続可能な目標に向けて行動を変える、地球に良いアクションをすることから、さらに一歩踏み込んで「持続可能なシステム」を倫理的にデザインする責任があるという、生きた実践の学問なのです。

参考文献:ドネラ・H・メドウス『世界はシステムで動く』枝廣淳子訳、英治出版、2015