コミュティを通して地域社会を作るPDC@岡崎での開催レポート
愛知県岡崎でのパーマカルチャーデザインコースを開催しました。
初日に、パーマカルチャーの概論や実践、コンセプトデザインのワークショップ、2日目に岡崎の町のツアー、3日目にガーデンでのデザインのワークショップを行いました。ここでは、特に岡崎の地域のこと、デザインのワークショップについて、レポートします。
今回の会場の岡崎、そもそも岡崎とは「岡の先(崎)」という名が付くように、東から西にかけて伸びる山々の先端にある街なのです。中心の市街地は、川から山の方に向かうと緩い坂になっている「河岸段丘」という地勢です。岡崎城があり、城を中心とした城下町として商店、宿場が栄えていました。
街の周縁部には、粉塵が舞い、騒音もでるため、石工の職人たちの通りがあります。「花崗町(みかげまち)」という地名もあるぐらいの場所で、花崗岩(かこうがん)が取れる石切り場がすぐ街のそばにあり、石材を調達する利点がありました。岡崎市広域で見ると花崗岩の地質だけではなく、片麻岩の地質も存在します。この地域では、「ししがき」と呼ばれる猪除けの石垣が沢山積まれ、城や墓石、仏像で使われる火成岩の「花崗岩」と違い「片麻岩」が人の手で割れ、形を容易に変えることができ、農民の人手で重ねて積み石垣をつくる、という使い道ができたのでしょう。このような地質や地勢、歴史を含め、岡崎の街をめぐるランドスケープの街歩きのツアーを、NPO法人岡崎まち育てセンター・りたの代表の天野さんにしていただきました。
ツアーのはじめ、集合した桜城橋は、歩行者しか入れない変わった橋です。雨風に強い木造の材でできており、屋根があり、座る場所や休憩する場所もあります。この橋は、市民団体が「桜城橋ふき」というイベントで市民自身の手で清掃され、また橋がかかる乙川もごみ拾いやヨガ、自然観察など市民活動の舞台です。私たちも、自己紹介やチェックインなど、ワークショップの初めに利用させていただきましたが、快適な環境だと実感しました。
天野さんのNPOの活動としては、岡崎の町の街づくりに、住民参加型のプロセスで行政と協働してQRUWAというコンセプトで、街づくりの公民連携の企画運営、運用をしています。「コミュティ」「地域」ということが、注目され始めたのは、2020年コロナになってからのように感じられるかもしれませんが、2011年の東北の震災、また天野さんが活動を始めるきっかけになった1995年の阪神淡路大震災の時にも、地域の復興、ボランティア、防災の街づくりという視点で注目を集めます。歴史を紐解けば、戦後の復興や、江戸時代に行われた改革にも、街の道の幅や、通りの曲がり方が決定され、そういった歴史性が積み重なって今の街があります。
パーマカルチャーは、「ランドスケープのデザイン」「土地のアセスメント」にも対して力を持つデザイン体系です。そのためその土地に根差していた人たちが、地域の素材でどのような建築や暮らしの文化を生業としていたのか学ぶことは、深く意義があることであり、地域資源を生かしたデザインの引き出しにもなります。一見菜園や森づくりのイメージからは遠いように感じられるかもしれませんが、地域の資源を再発見し、様々な形で活かす想像力の幅を広げる重要なことであると、位置づけられるのではないでしょうか。
今回の共同主催の今回のコースのパートナーのパーマカルチャーデザイナーの榊さんは、この地域に古くから暮らしていた人ではなく、愛知県岡崎市に移住した一人です。移住した一人でありながらも、活動を立ち上げ、はじめ仲間を集って地域での取り組みを行っている最中です。
地域社会に働きかける取り組みとして、スコシズツ.マーケットというマーケットを愛知アーバンパーマカルチャーのメンバーで運営しています。
マーケットという、気軽に立ち寄れる場でありつつも「できることからスコシズツ」というはっきりしたメッセージがあります。環境問題という議題化されやすいトピックは、関心がある人、関心がない人という形でコミュニティを閉ざしがちになりやすいものです。
目的を持ったコミュティは、同じ感覚のメンバーには居心地が良いものとなりがちですが、私たちの生きる地域社会には、多様な人がいます。例えばマーケットを行う上でも、出店者の人だけではなく、行政の人とのやり取りや、青年会議所、生協など、必ずしもパーマカルチャーや環境という思想や感覚で繋がっている人だけではないメンバーと共につくる、コミュニティを通して地域社会をつくることの、生きた実践の事例です。
スコシズツ.マーケットの会場となった籠田公園は、河岸段丘の途中にあります。デザインコースが行われている3日間では「丘の途中のマーケット」が開催され、籠田公園だけではなく、川から公園までの歩道がマーケットとなっていました。マーケットを楽しみつつ、協働主催のSnow Peak business solutionsの磯貝さんに、地域の人を巡るツアーをしていただきました。磯貝さんもこの地域と関わり始めた一人でありながらも、会社の事業を通じて地域社会に触れてきました。
磯貝さんから、企業と地域との関わりについてお話いただき、特にこれまで見てきたようなマーケットのテントや椅子などのハード面のサポートをしていること、パーマカルチャーガーデンのあるシェアオフィスosotoの運営や、焚火での交流会、コミュニティづくり、イベント等の取り組みについてご紹介いただきました。実際に、私たちも2日目の夜に、焚火の交流会を行い、海外のパーマカルチャーデザインコースのことや、今自分が直面している課題、日々のことや家族のことなど、話題は絶えませんでした。
地域に移住してきた人の取り組みや、地域に根付いた商店を巡り、街歩きをします。ツアーの中でもカメラ屋さんのビルをリノベーションしたマイクロホテルに入り、Okazaki Micro Hotel ANGLEのオーナーの方にも、お話ししていただきました。マイクロホテルといっても、すべてがホテル内で完結するような場所と違い、バーやカフェが1階にあり、地域に開かれた場所で、磯貝さん自身も普段からよく行く場所の一つであるということ。オーナー自身も、山梨からの移住者で、この地域に入って商売を行う上で、地場産業の花崗岩のプレートや、アメニティまた、スタッフの制服など、地域の産業の物をどのように取り入れて行っているか、また地域に入る時の感覚の事などもお話いただきました。
ツアー、という形ですが、コーディネートする磯貝さん自身がその場所について語ることよりも、普段から築いている関係性を通して、地域への愛着を持って過ごしていることが、伝わってくるような時間でした。
最後に、岡崎の地域の産業、和ろうそくのお店に訪れました。和ろうそくのお店は地下室があり、暗闇の中でテーブルの上にロウソクをともすことのできる場所があり、全員でそこに入り、この一日の事を、振り返る時間を持ちました。コースの始まる事前のZoom会から、一人一人が言葉をおいてゆくこと、出てきた言葉を大切に全員が扱うことを大切にしようと実践してきました。この日も、情報量の多い一日でしたが、ろうそくの灯りに照らされながら一人一人が言葉をその場に出してゆく、落ち着いて話し、聞きあう時間を持てました。
パーマカルチャーデザインコースとして、デザインのワークショップが、今回は初日、最終日に散りばめられたコースだったことも今回の特徴でした。初日は、会場のコワーキングスペースのosotoの庭のパーマカルチャーガーデンのコンセプトを、参加者自身、みな個人で考えるというもの、最終日は榊さんの種つなぐ庭の調理場のデザインを2グループで、考えるという形で行われました。
「デザイン」は、表面的な形や機能について考える以上に、なぜそれを作るのか、それはどういった思い、コンセプトを形にするものなのかということを深く対話します。それは、植物や街、人など「移ろうもの」を捉えるために「システム思考」という考え方で物事を捉えること、また何のためにそれを作るのか、どのような自然と人間をケアするというパーマカルチャーのコンセプトを体現したものであるかという「デザイン思考」のフレームワークとしてとても重要なものです。
僕自身がパーマカルチャーデザインコースを受けた時も「コンセプトを一文でまとめる」というトレーニングをしたのが原体験となっており、それを目の前にあるosotoのガーデンを観察する中で、実施してみることにしました。
「身近な自然から繋がりを発見するはじまりの庭」
「地球を感じて自分と人と繋がる」
「天気や音、風や音など自然の力を感じる」
「人と人、人と自然、暮らしと働く、スモールスタートの実験室」
「季節の変化を感じ、ワークスペースで自然に癒されコミュニケーションが生まれる」
など、同じものを見て、同じも説明を聞き共通した体験をしているにもかかわらず、参加している人の経験してきている、出会ってきた言葉、またこの経験をへて歩む方に向けての中間にある内にあるものが多様であるだけあって、色とりどりのコンセプトが出てきました。これからもこの場所に日常的に関わり続けている人がいるからこそ、デザインのワークショップを行う意義をみなが見出し、集中して取り組む時間となったと思います。
最終日は、講師の日々の生活の場であり、鶏がやってきたばかりの今まさに発展している途上の「Permaculture Garden たねつなぐ庭」へ。ここでは、場所や開催されているプログラムの説明があったのち、デザインのワークショップを。息子さんと旦那さんも、今回プログラムに参加し、それこそ生活をしている人を交えてのデザインとなり、参加者としては、彼らから普段感じていることを引き出すようにうまく投げかけをしてゆくことや、子供の爆発的な想像力を披露してくれるのを受け取りつつ、まとまりをもつようにリードしていく工夫を。osotoガーデンでの、一人で行ったコンセプトのワークショップと、今回の生活している家族含めてのチームでは、デザインのワークショップとして、違った工夫をすることが、要求されていたようです。
その日の午後だけという短い時間でしたが、発表もコンセプトから立てるプロセスを経ていて、同じ家族でも違う着眼点やニーズがあり、それをうまく生かしていることが、短い発表の中でも伝わりました。地域の素材やコンセプトの表し方や要素のつなげ方など、この3日間経験してきたことが、すぐにデザインに応用されていることも、端々に見受けられるものでありました。
最終日の終わりに、講師から何か証明をもらうという形ではなく、参加者同士がお互いにお互いの頑張りを言葉にすること、それがなによりの正直な言葉で語られた証明であるということで、お互いに言葉を送り合う時間をもちました。
3日間を通して、岡崎市という地質の違う場所を2つ内包し、山、里山、街、河川のランドスケープが広がる歴史性ある空間から、街場の人々の地域社会、街の中にある小さな箱庭から、個人宅のガーデンまで、「いかなるスケールにも適応できるデザイン体系」としての側面のパーマカルチャーのもつ、さまざまなレイヤー、スケールを対象に思考できる強みが発揮されたプログラムであったと思います。
2022年、一年を通して、パーマカルチャーデザインコース、ワークショップを開催してきましたが、何よりも、人と人とが出会うこと、対話することを通して変わってゆくことを大切にできたと思います。