富士山について

富士山麓の物語

富士山麓には、多くの物語があります。富士山というと、富士登山という形で知られていますが、富士山は「あるべき場所にあるべき自然がある」という風に言われるぐらい、多様な日本の自然、生物が入っている場所です。日本の自然史の中では、特に富士山の形成が新しく、ほかの山々と違い、氷河期からの生き残りは存在しません。生態系は、空白を嫌うため、噴火の影響によって、様々な場所から生物たちが我先にその空白を埋めようとしてやってきて、それぞれの場所に行きついたため、日本の自然の博物館のようになっており、逆に言えば洞窟の奥底の微小な生物を探しにいかねければ、富士山固有のものは、見つけることができません。その一方で、高低差ある標高、火山が作り出した地形、草原、森林、里山と日本のイメージを各地に備えているその姿は、森羅万象と呼ばれるのにふさわしい多様性をそなえています。そんな、富士山の登山ではなく、自然に注目して、活動している事業者もいます。特に「富士下山」というコンセプトを打ち出し、富士山の山麓の魅力を伝えているのが富士山ネイチャーツアーズです。特にツアーでは、毒の蝶のアサギマダラの事や、コケのツアーなど、多様な富士山を多様な切り口で案内しています。

 また、富士山全体が博物館だという風に捉えて、子供たちを中心に活動をする団体もあります。富士山アウトドアミュージアムは、ガイドや遊ぶことだけではなく、動物の研究活動、特にロードキルに着目して市民活動としてその調査運営を行っています。「ロードキル」という言葉は、なかなか聞きなれない言葉かもしれませんが、動物が多く暮らす地域に住んでいると、もしかすると道路にひかれてしまった動物の死体が落ちているのをみたことがあるかもしれません。そのことがロードキルと呼ばれています。富士山は、多様な自然がある一方で、人里に近く、道路も数多く走っています。また、観光地で交通量も多く、観光で自然の中で楽しい思い出を作った後にそんな光景を目にしてしまうこともあるのです。その問題を今まで、継続してデータを集めて調査した事業や研究が富士山麓の地域ではなく、調査を進め、それが可視化されるような形で私たちも目にすることができます。自然と人とが、共に生きること、それが暮らしの範囲が近いことは、いろいろなことが起きてきますが、自然にはそれぞれの生き物の物語があり、私たち人間だけがこの世界にいるのではなく、彼らの物語もちゃんと存在しているのです。

 富士山麓は、そういった人と自然の境界が混ざり合いつつも、深くそのことを感じることができる場所です。ぜひ、訪れてみてください。