VUCA時代に至るまでの自然保護の文脈と、パーマカルチャーの現在の価値
パーマカルチャー流行ったの10年ぐらい前?という話は、よく聞きますが少し、大雑把な日本と世界の環境に関わる動きもはさみながら、素描してみたいと思います。
パーマカルチャーの前段の1970年前後、戦後の近代化学工業の台頭に伴って、日本では水俣の「苦海浄土」レイチェル・カーソンの「沈黙の春」が発表されます。またパーマカルチャーのコンセプトにも影響を与えた福岡正信の「藁一本の革命」英語ではone strow revolutionが、1978年に英訳されます。このほかに、地勢の集水のことや、中国におけるアジアの農村の持続可能性など、の情報が一気に英訳され、集まってくる時代であり、ビル・モリソンがパーマカルチャーとしてそれらを統合して体系立てるコンセプトの萌芽が存在する時代でした。
1980年にデザイナーズマニュアルが発表され、各地でパーマカルチャーデザインコースがはじまります。
その時のビル・モリソンのプリンシプル、「自然と対立するのではなく共に働くのだ」や「小さくて多機能性を持たせるデザイン」などは、今でも使われていて、こちらの原則を気に入っている伝え方をする人も多く、日本ではパーマカルチャーという形ではなく、環境教育の走りが始まっており、1980年はホールアース自然学校やキープ協会など今でも自然保護や環境教育で活動する人たちの根っこが設立され始めた時代です。
世界でもエコビレッジや、イスラエルのキブツ、インドのオーロビルなどエコビレッジブームにも湧きます。1990年には、セヴァン鈴木さんのリオでのサミットのスピーチが、影響力を持ちます。日本では『生き物地球紀行』というテレビ番組であったり、もののけ姫であったりと、90年生まれの僕の世代が子供だったときに、まだスマホやYouTubeがなく、テレビと映画がそれなりの力をもっていた時代に子供だった世代としては、人々に強く影響を与えるものが体感としてもありました。
それから、2002年にデイビッド・ホルムグレンが、各地でガラパコス化してきているパーマカルチャーのプリンシプルのコンセプトをまとめ、先生の先生の先生と呼ばれるローズマリー・モロウが先生に向けた書籍や、実践のためのガイドブック、Earth users guide、またアメリカでのフォレストガーデンを作るためのエディブルフードフォーレストガーデンなどわかりやすく、実践と基礎的な情報のインフラが整ってきます。
イギリスのトットネスでトランジションタウン運動も起こり、日本でも藤野をはじめ、トランジションタウンが始まり、だんだんと「レジリエンス」という言葉が注目され始めます。ここから、日本でのパーマカルチャーの訳書も止まりますが、デイビットホルムグレンは、この間の15年の間、執筆の手を止めずに書き続けています。
また、2011年からABCガーデニングオーストラリアで、costaがホストを務め始めます。2014年に、pipというパーマカルチャーのデザインコースの案内、またなかなかポップで見やすいデザインの本がない中でオーストラリアの雑誌が創刊されてチームができ、good lifeやmilkwoodなどの事業者が、PDCやティーチャートレーニングを行っています。日本でも、地域おこし協力隊が始まり、地方創生と言われるようになってきます。
パーマカルチャーの文脈を、石油価格の上昇に伴って、インフレや、基礎インフラが劣化してゆく世界の中で、自分たちに必要な食料、コミュニティ、小商を、先進の都市ではなく、郊外の地域の価値を引き出すことで自分たちで豊かな暮らしを作ってゆくという、コンセプトとビジョンを具体的で実行可能な形で記した大作、Retoro SuBerbiaが出版されたのが2018年、またヴァンダナ・シヴァが前書きを書いた、パーマカルチャーの教科書を作ってきたローズマリー・モロウの決定版のEarth restore’s Guide to Permacultureを出したのが2020年。
このあたりで、SDGsやグレタさんが出てきて、日本でも大地の再生やリジェネレーションという言葉が、いろいろ言われるようになり、各地でSDGsや地球の事で講演をする人たちが目立つようになります。「地球の修復する人のための」というタイトルになったことが、まさに時代の真ん中の言葉を当てはめにいったように思います。
デイビット・ホルムグレンの12のプリンシプルをベースに、オンラインコースでの経験からMilkWoodPermacultureがPermacultureのHabitをまとめたのが、2023年、ABCオーストラリアでホストを務めるHannah,Costaが、それぞれGoodlife/Good life growing, Costa’s Worldを2020年代に出版しています。
パーマカルチャーは、常に豊富なイメージとコピーのセンスに溢れるデイビット・ホルムグレンがいうには「文学」であり、固定した何か正解がある「マニュアル」ではなく、常に時代に合わせてコンセプトを変えて、更新し続ける生きた学びであり、実践と実験の集大成であると、この現在に至るまでの道筋を素描して思いました。
自然の保護思想においては、ビル・モリソンがそうであったように、特に1970年の開発や経済発展に伴う公害や強烈な反対運動としての活動が有効であった時代も、確かに存在していました。その時の現実の中でも、「苦海浄土」の中では単純な被害/加害の対立ではなく、人間性や複雑さ、またその苦しみの残酷さを明晰に文章に私たちが手にとって読める形で残っています。
その時の現実を感受性のある書き手が眼差した現実が、そういったものであったとするのであれば、今はVUCAと呼ばれ、より加速して複雑な時代であります。基本的には、世界システム論などが描写するような、中央と周辺の構造の大局で捉えることがVUCAの世界を見る一つのまなざしとして方向性を示してくれますが、グローバルに展開する複雑な中央と様々な人や主体が仲介して収奪する多層的な世界を克明に描写するとまさに複雑といえる現実が浮かび上がってきます。
現代の中央と周辺のグローバルな複雑な絡まりあいと、その偶然の再生の過程をアナ・チン『マツタケ』ー不確実実な時代を生きるすべ(洋書のタイトルは、世界の終りのキノコ、資本主義の災禍の後の命の可能性)は、特にうまく描写しています。特に、資本主義が自然の資源を思いっきり収奪することは、保護の思想からはあってはならないことですが、それは現実にアメリカで起こり、自然にとっては富士山の噴火のように「攪乱」として生態系は反応します。攪乱ののちに再生してくるものが日本ではアカマツであり、アメリカでも同じように菌根と共に生きるような知恵を持ち、復元力のあるマツが再生してきます。菌根と共に生きているのであれば、当然マツタケは生え、それは市場のある日本に売るビジネスチャンスともなります。
一方で、日本の自然は、常に火山や人間の攪乱が起き続けてくる中で、再生を繰り返しつづけててきたレジリエンスに富む自然であり、里山は人間の攪乱によってバランスが保たれ、多くの生態系のパッチや多様性が狭い面積に豊富に存在する場所です。また、噴火による玄武岩質の溶岩から安山岩、石灰岩、花崗岩、蛇紋岩質の石質が入り乱れ、標高差も浴衣で、また降雪、降雨のパターンも面積に対して複雑でありアセスメントがまずとても大事になってきます。
そして次に、日本ほど自然を再生しようというときに、噴火が起きる前の自然なのか、中世以前の大伐期が起こる前の自然なのか、戦前の自然なのか、木々を使う生活様式が失われた中で、人間が攪乱をし続ける自然なのか、また噴火などの自然の攪乱をどうとらえるのかなど、諸外国に比べて何を生態系の劣化と定義するのか、コンセプトを立てることが、非常に慎重にならなければならない自然でもあります。シカや過密な植林地や人間が立ち入れなくなった雑木林が多くなったからといって、以前のように自然の価値を引き出しきれなくなったとしてもそれを劣化と定義していいのかは、慎重な議論と観察が必要になります。
利害関係や被害と加害の構造、収奪と受益者、人間の善悪の物の見かたと、自然の法則や生態系のフィードバックが複雑に絡まり合った世界では、端的な反対運動や、すべての問題を特定の手法を推進することだけでは、解決できない時代となり、また生き方が多様になるにつれ、人々のニーズも多様になり、地域など地縁の社会の中にもグローバルなものが入り乱れる社会となってきました。そういった時代でこそ、コンセプトを見える形で提示することが、具体的で実行可能な形でデザインをして、地域やコミュニティと対話しながら何かをデザインすることが、社会を変えてゆく力になると思うのです。
パーマカルチャーの40年の一貫して核となるのは、食糧生産を身近で行い、効率の良いエネルギーを得るデザイン、生態系、土壌への理解、コミュニティへの理解であるのは、変わらない部分であり、これらは人間が暮らして文化を作ってゆく上でどの時代、どの地域でも模索され探求されてきたテーマでもあり、デイビット・ホルムグレンが20年前に直感した、不確実で不安定で私たちの暮らしの基盤が未来を生きる今にこそ、学び直す価値があることであると思います。
Bill Mollison “PEMACULTURE- a designer’s manual”
David Holmgren “PERMACULTURE- Plinciples and the pathway beyond Sustainability-“
David Holmgren “Retro Suburbia”
Rose Marry Morrow “Earth Users Guide to Permaculture”